仕事を知る |

プロジェクトストーリー

知らされなかった事実。 あのプロジェクトは、 6,000,000,000kmを旅した「はやぶさ」だった。

2003年5月9日。地球から遥か彼方にある小惑星「イトカワ」を目指し、小さな探査機が日本を飛び立った。
イトカワまでは7年、60億kmという想像を絶する旅。その探査機に搭載されていたのが、中部日本マルコが製作したメインハーネスだった。

中部日本マルコ株式会社
取締役副社長
大内 裕樹

PROFILE
1995年入社。製造部門でコネクタやハーネスの生産に携わり、「はやぶさ」や「H2ロケット」をはじめとした大プロジェクトに関わる。現在は生産部門の副社長を務める。
Story01

何に使われるかを知らされないまま 1カ月にも満たない納期で メインハーネスを製作する

1999年、神奈川県横浜市にある日本マルコに、N社からある依頼があった。それは「MUSES-C」という宇宙分野のプロジェクトで使用するメインハーネスの仕事だった。日本マルコは内容を確認して受注し、2000年に中部日本マルコで組立作業をすることになった。

「そのとき、メインハーネスの仕事だとは聞いていましたが、それが何に使われるのかは聞かされていませんでした」
そう話すのは、副社長の大内裕樹。当時、このハーネスの組立作業を実際に担当したメンバーだ。
「何に使われるかよりも、気になったのは納期でした。何しろ1カ月もないんですから」
大内が気にかけていたのは、このハーネスをどうやって納期までに間に合わせるか、その一点だった。さらに難易度が高いと感じたのは、コネクタの結線数である。当時、大内が製作していた製品は10〜20カ所程度だったが、このハーネスは200〜300カ所もあったという。図面はN社の図面であり、見慣れた自社のものではない。書き方も、使われている記号も、すべてが違う。そんななか、布線表(*1)やスペックを読み取りながら作業を進めるのは、困難を極めた。

Story02

受注先との協業で 愕然とした 技術レベルの違い

「N社の社員もこちらに来て、一緒に作業しました。このとき彼らの作業を間近で見て、レベルの違いに驚かされましたね」と、大内は当時を振り返る。
作業中に出たゴミはそのままにせず、出た瞬間にすべて袋に入れて処理する。はんだ付けの量は最小限にとどめ、見た目も美しい。中部日本マルコの技術レベルを、はるかに凌いでいた。
「すべてが新鮮で、勉強になることばかりでした。特にポッティングモールド(*2)の出来栄えには、真似ができないと思いました」
大内らのポッティングモールドは、樹脂が白く濁ることがあったが、当時はそういうものだと思っていた。しかし、N社の社員が手掛けると一切濁りがなく、透き通るように仕上がっている。大内が疑問に思って質問すると、「特別なことはしていない。技術の積み重ねだ」と返ってきた。
「もう言葉がありませんでした。彼らの品質基準は、私たちが『これでいい』と思っていた完成度のさらに先にあったのです」
他社とのこうした協業は、中部日本マルコにとって技術を見つめ直す大きな契機になったに違いない。

Story03

感動の次に押し寄せたのは、 「このままではいけない」 という危機感。

1カ月にも満たない納期の中、無我夢中で走り続けた大内らは、無事納品を済ませ、ようやく日常を取り戻した。2003年にはやぶさが打ち上げられ、2005年にイトカワへ到着。さまざまなトラブルを抱え、一時は帰還が危ぶまれたものの、2010年、オーストラリアの砂漠に着陸した。
「2010年になり、はやぶさが7年の時を経て地球に帰還することがメディアで騒がれ始めました。そのとき、弊社の技術部のメンバーが言った言葉はいまでも忘れられません」と、大内は話す。

「MUSES-Cは、はやぶさのことらしいぞ!」

Story04

「MUSES-Cは、はやぶさのことらしいぞ!」

大急ぎで仕上げたメインハーネスは、世間を騒がせている「はやぶさ」に搭載されるものだったのだ。その事実を知らされた大内は、静かに感動した。自分たちの手掛けた製品が、60億kmという途方もない距離を旅し、再び地球へ戻ってきた。それを聞いて、壮大なロマンを感じずにはいられなかった。

ただ、大内は言う。

「確かにその事実は感動的でした。しかし、その感動よりも、私は『弊社のレベルはまだまだだな』という気持ちのほうが大きかったですね」
N社との技術レベルの違いをまざまざと見せつけられたことで、技術には「これでいい」という到達点などなく、さらに上へ、もっと上へと突き詰めていくことが大切であると学んだ。

「MUSES-Cプロジェクトは、納期は短かったものの、大きなミスもなく作業を完了しました。もちろん、それは良いことなのですが、私たちはもっと上のレベルへ成長しなければならないと実感しています。たとえ失敗したとしても、それを克服することが成長につながると思っています。まだまだ知らないことばかりですよ。だから楽しいし、さらなる伸び代があると思っています」
大内はそう力強く語った。

*1 配線作業に必要な情報が一目でわかるようにまとめられた、配線専用の指示書
*2 電子部品などを樹脂で封止する作業